TestingBookが実名制をとる理由
製品デザインのうち、匿名制ではなく実名制を選ぶ根拠を説明します。
実名制を採用する理由
TestingBookは原則的に、実名で利用されるものとします。
それは以下のような理由からです。
1,テスト作成者と質問回答者の信頼性
なんどもユーザーインタビューを重ねていくうちに、ユーザーはテストを解いたり、教科書の内容を質問するにあたって、そのテスト作成者や質問の回答者が信頼できるかどうかを気にすることがわかりました。
たとえば、はじめに「テストを解かない」と回答した人であっても、同じ学部の仲間や研究室の同僚がテストの作っていると知った場合には、テストの内容を覗いてみたい、解いてみたいと回答しました。
こうしたテスト作成者の情報がテストの価値を高める傾向は、テスト作成者が、その教科書の著者や大学教授であったときにもっとも大きくなるようです。
テスト作成者が、テストで問われる教科書の著者であったり、その教科書を指定した教授であった場合には、ユーザーからぜひ使いたいという声を多くいただきました。
この声は、質問に対しても同様にいただけました。本を書いた当人や専門家から質問に答えてもらえるなら、質問をするといいます。
作り手の情報をうまくテストや回答への信頼性に結びつけ、ユーザーにTestingBookを利用したいと思ってもらうためには、作り手の「本名(あるいはペンネーム含む通り名)」「所属」「肩書き」「経歴」という四つの情報が開示されている必要があります。
この四つの情報のうち「本名」は、口コミのような「知り合いに対する信頼感」を、テストや回答に付け加えます。
そして「所属」「肩書き」「経歴」といった情報は、専門知識のような「権威に対する信頼感」をテストや回答に付け加えます。
こうした信頼感を育てる作り手の情報によって、ユーザーは、(ときにテストや回答の内容以上に)テストや回答に価値を感じるのです。
そして、こうした情報の開示を促す仕組みが、原則的に本当の情報を記載するように求める「実名制」なのです。
2,インフルエンサーの心理的な参入障壁を下げる
インタビューの結果、もっとも信頼性の高いテスト作成者・質問の回答者は、「教科書の著者」や「大学教授」といった「インフルエンサー」であることがわかりました。
なのでTestingBookは、そうしたインフルエンサーにテストを作ってもらったり、ユーザーの質問に答えてもらえる環境を整えておかなくてはなりません。
実名制の利点は、この環境を整えることにあります。
2チャンネルやTwitterといった匿名が一般的な環境では、発言に対する責任の所在が曖昧です。
そのため、言動が荒れたり、炎上などといった辛辣な対応が頻繁に起こります。
こうした匿名環境で、教科書の著者や大学教授といった人たちが懇切丁寧にユーザーの質問に答えていくのは抵抗感があるでしょう。
しかし、実名環境では、発言の責任は直接自己に結びつきますから、言動の雰囲気も穏やかなものになりやすいだろうと考えられます。*1
インフルエンサーも、匿名の殺伐とした雰囲気よりも、実名の穏やかな雰囲気の方が参加しやすいだろうと考えます。
また実名制は、インフルエンサーにとってもう一つメリットがあります。
これは質問限定になりますが、インフルエンサー側が回答すべき相手を選別できるという点です。
多くの質問が寄せられたとき、その全てに答えるのは大変です。
こうした場合は否応なく回答する質問に優先順位をつける必要が生じますが、そのさい実名制であればプロフィールを確認して、「自分が受け持っている生徒」の質問から先に答えるなどということもできます。
一応、質問する側の「質問しやすさ」を考えて、質問者が匿名で質問ができるようにはしています。
しかし、質問が多い場合には、インフルエンサーにとってみても、匿名の質問者よりも、実名で質問をしてくれる人の方が責任感が自己に紐づくことによる「誠実さ」を感じるため、質問に答えてあげたいと思うはずです。
ユーザーには「質問のしやすさ」を用意し供給を促しながらも、インフルエンサーには質問が供給過多になった場合の「質問の選別手段」を用意する。*2
実名制を基本に、匿名性を取り入れることには、このようなメリットがあります。
以上、「サービスの穏やかな雰囲気」と「回答する質問に対する優先順位のつけやすさ」の二つの理由から、実名制を採用することで、TestingBookはインフルエンサーの支持を受けやすくなると考えます。
まとめ:実名制を採用するメリット
- 知り合いが利用していることが「わかる」ことによる「テストへの信頼性」。知り合いが作成したことが「わかる」ことによる「テストへの信頼性」(社会的証明)
- 権威が作成したことが「わかる」ことによる「テストへの信頼性」。権威が答えてくれたことが「わかる」ことによる「質問への回答への信頼性」(権威)。
- 実名を明かすことによる責任の帰属意識により、ユーザーの振る舞いが道徳的になり、サービスの雰囲気がインフルエンサーの参入しやすいものとなる。
- 質問者の身元がわかるため、質問が多くなった時に、インフルエンサー側で回答する質問者に優先順位をつけることができる。
このうち実名制からもっとも求めるメリットは、「1」と「2」です。
「3」と「4」は、「テストへの信頼性」と「質問への回答への信頼性」を最大化するインフルエンサー(教科書の著者と大学教授)の参入を促すためのメリットであるため、「1」と「2」に付随するメリットです。
TestingBookが実名制を採用する理由は、FaceBookのような「つながり」ではなく、「情報に対する信頼性」です。
TestingBookは、利用目的が多様なFaceBookのようなSNSとは異なり、「教材を学ぶ」という明確な利用目的があります。
この「学習」という利用目的のために、知識の信頼性が必要であり、その知識の信頼性を高めるために、実名制が必要なのです。
*1:実際のところ、匿名から実名にしても、ヘビーユーザーの荒らしコメントを抑える力は少ないそうです。
実名制がコメント荒らしを解決できない、驚くほど確かな証拠 | TechCrunch Japan
「匿名文化が差別発言を引き起こした」という幻想は一言でひっくり返せる(不破雷蔵) - 個人 - Yahoo!ニュース
しかしそれでもライトユーザーのコメントに対しては効果があると言うのですから、実名制を採用する十分な理由になります。それに実名制にとって重要なのは、実際に実名が荒らしコメントを抑えられるかどうかよりも、むしろ実名が荒らしを抑えると思われているという「社会の常識(イメージ/連想)」のほうにあります。納得できない・直感的ではない「真実」よりも、誤った「常識(イメージ/連想)」の方がはるかに人を動かします。実名制の目的は、炎上の防止よりも(それは倫理ではなくシステムで防げます)、むしろ本の著者や大学教授といったインフルエンサーの心理的な参入障壁を下げることなのです。参入しやすい「穏やかなイメージ」をTestingBookに作るために、実名制は必要です。
*2:質問が供給過多になったとしても、質問に答えるのはインフルエンサーだけではないので、誰か他の人がユーザーの質問に答えてくれるはずです。質と機能を分ければ、匿名であってもTestingBookは機能を果たせます。TestingBookがYahoo!知恵袋などの匿名質問サービスと異なるのは、質問者側が実名を明かして「こんな質問をすれば自分が愚かだと思われるかもしれない」という自意識の攻撃を耐えさえすれば、インフルエンサーの回答という「高い質」を得られるかもしれないと言う点です。TestingBookは、実名Q&Aサービスである「Quora」に近いですが、「教科書の内容に踏み込んで質問するサービス」であるという点で、根本的に異なります。