TestingBook

読書に知識を求める人のためのテスト学習ツール

テストの解答にページ数を採用する理由

 

テストの解答にページ数を記載する理由を説明します。

 

 

テストの解答をページ数にする理由その①「翻案権に対する配慮」

教科書のテストの解答は、作成者にページ数を提示してもらうのではなく、直接「答え」を書いてもらうということも考えられます。

しかしこの場合、著作権のうち「翻案権」の侵害にあたる可能性があります。

翻案権とは、著作物(作品)を翻訳したり、編曲したり、変形したり、脚色したり、映画化したりするなど「作品の大筋を変えずに改変」する権利のことです。*1

この翻案権の侵害にあたるものに、著作者の許諾をえずに「書籍の要約」を発表するというものがあります。

要約の内容が数行の内容紹介のようなものであれば翻案権の侵害となることはありませんが、「その要約を読めば作品のあらましがわかるようなもの」「原著作物を読まなくても原著作物に表現された思想、感情の主要な部分を認識させる内容を有しているもの」である場合には、翻案権の侵害にあたると考えられます。*2

また翻案の定義について最高裁判決(江差追分事件・平成13年6月28日判決)は、「既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持つつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為」としています。*3

これらの事実を踏まえると、本の内容を問う問題文(テスト)だけならば、翻案権の侵害にはならないと思います。

問題文で問われる箇所は、本の内容でも重要な箇所であり、「現著作物に表現された思想」「感情の主要な部分を認識させる内容を有している箇所」「著作物の表現上の本質的な特徴」がとくに問われるはずです。

しかし当然ながら、問題文で問われた箇所(問題の答え)は、テストの元となった本を読んでいない人には、「テストのを読むだけではわかりません」。

本を読まずにテストに正解できることは、まずありません。

たとえ答えが合っていたとしても、本が手元にないなら、それが正解であるということを確認するすべもありません。

つまり、テストの問題文だけからは「既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得すること」はできないのです。

だから、テストの問題文だけならば、翻案権の侵害にはならないだろうと考えられます。

 

しかし一方で、テストの問題文と一緒に、その問題の解答が「直接的な文章」が公開されていたらどうでしょう?

先に述べたように、テストの問題文では、著作物の中でもとくに重要である、「著作物に表現された思想」「感情の主要な部分を認識させる内容を有している箇所」「著作物の表現上の本質的な特徴」が問われるはずです。

そして、もしその「問われた箇所の正解」が直接的な文章で誰にでも見れる状態にあるなら、それは「既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得する」ことができる状態にあると解釈もされる可能性があります。

つまり、テストの解答を直接文章として提示することによって、本の要約サイトと同じく、本のテストサイトに「違法」という判決が下される危険性があるのです。

 

テストの解答をページ数で示すことは、この翻案権侵害の危険性を回避することができます。

当然ながら、ページ数を確認するためには、手元に実物の本が必要です。

ユーザーは、問題文の答えとして提示されたページを開くことによってはじめて、「既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得する」ことができます。

したがって、「テストの問題文」と「解答として示されるページ数の表記」の二つの組み合わせについて、翻案には当たらないのです。

 

テストの解答をページ数にする理由その②「著作者の利益」

 

民主社会においては、情報の自由な流通は妨げないのが基本的なルールとされています。

その中で著作権という情報の独占制度が認められているのは、「創作振興」という観点からです。

つまり、一定期間作品が無断利用されず、利用から対価を得られることによって、創作者とそれを支える人々が生活の糧を得る機会を保証し、それがさらに創作の原動力になること。それが著作権の目指すものです。*4

 

この観点から言えば、本のテストは、著作権の理念にかなったものであると思います。

つまり本のテストは、読んで満足してしまう本の要約に比べて、本の購入動機となり、著作者の利益につながり、さらなる創作の原動力を生み出せるものであると思います。

 

私たち人間には、「問い」に対して、「正解」を知りたがる性質があります。

この性質は、心理学の専門用語で「ツァイガルニク効果」と呼ばれています。

ツァイガルニク効果とは、私たちが「未完了のものに強く心を惹かれ、未完了のものを完了させたがる性質」です。

本のテストの問題文は、解答が明らかにされない「未完了なもの」です。

もし、その本を購入していないユーザー、その本を読んだことのないユーザーがテストの問題文を読めば、その人は「正解を知りたい」と思うはずです。

そして「正解を知る」ためには、本を購入しなくてはなりません。

このようにテストは「未完了がもたらす完了への欲求」によって、ユーザーの著作物への購買意欲を高め、著作者の利益につなげることができるのです。

 

私たちが目指しているテストの第一目的は、一度その本を読んだ人を対象に、自分の本への理解度を試したり、テスト効果によってより本の内容を記憶してもらうことにあります。

しかし同時にテストは、一度もその本を読んだことのない人を対象に、ツァイガルニク効果によって著作者に利益をもたらすことができます。

本のテストは著作者の利益につなげ、著作者の創作を振興する、著作権の理念にかなったものなのです。