成功するスタートアップ
スタートアップは、世の中の「痛み(課題)」を解決する組織です。
ただしそれは、赤の他人の「痛み」を解決するということではありません。
「自分ごとの痛み」を解決することによって、自分と同じ「痛み」を抱えている人々を救うということです。*1
私は「痛み」を抱えています。
TestingBookが解決する「痛み(課題)」は、私自身の「痛み」でもあります。
できることなら、TestingBookのチームの一員になってくれる社員・投資家には、この「痛み」に共感してもらいたい。
この記事では、TestingBookが解決する「痛み」について説明します。
TestingBookの解決する「痛み」、そしてTestingBookの「使命」
TestingBookとノンブルリンクは、本から学びを得ようとする人たちの「痛み」を解決します。
どのような痛みなのか?それを説明するために、少しだけ私の失敗談におつきあいください。
私は、高校卒業後は大学に進学せず、上京して、杉並区の図書館近くに引っ越しました。
杉並区の素晴らしい図書館システムを使えば、大金を払って大学に進学しなくても、無料で、大学で学ぶのと同じくらい「学べる」と考えたからです。
現代日本では、大学教授や世界的な権威、第一線の研究者が自分の分野について記した素晴らしい本がたくさん出版されています。
現代では、「学ぶこと」が目的ならば、大学で定型的な教育を受けるよりも、図書館の本をたくさん読んだ方が、より経済的に、より多くの知識を得られるのではないかと、若い私は考えていたのです。
結果として私の仮説は、当たってるところもありましたが、多くの点で間違っていました。
まず当たっていたところとしては、「現代日本(とりわけ東京23区)という環境では、私たちはお金をかけなくても、意欲次第で相当なレベルまで学ぶことができる」という点です。
日本の出版業界は力強く、公共図書館の質はとても高いです。
杉並の13もの図書館には、国内外のありとあらゆる分野の入門書から専門書まで、幅広く揃っていました。
そうした豊富なラインナップから、自分の「知識レベル」にあった書籍を選んで学ぶことのできる図書館は、教師の「教えるレベル」に生徒が合わせなくてはならない学校教育よりも、効率的に学べる学習環境であると見ることもできるでしょう。
しかし、私の予想が当たっていたのは「現代日本の恵まれた学習環境」だけでした。
おおもとの私の目標である「学習」についていえば、私は本質的な事実をまったく見抜けていなかったのです。
その事実とは、学習において重要なのは、「入力(インプット)」よりもむしろ「出力(アウトプット)」であるということです。
「教うるは学ぶの半ば」ということわざがあります。
これは「人に何かを教えるときには、半分は自分にとっての勉強にもなる」という意味です。
このことわざの出典の成立はとても古いですが、現代では、この古めかしいことわざが心理学的にも脳科学的にも正しいことが明らかになっています。
人間の脳は、「学んだこと」を人に教える過程で、「記憶を変化」させ、本当の意味で学んだことを「理解」し、そして学んだことを「思い出しやすく」します。
学んだことを「生きた知識」として身につけるためには、人に「教えること」、すなわち学んだことを他人に向けて話したり書いたりするなどの積極的な「学んだことの利用(アウトプット)」が不可欠なのです。
しかし、私はこうした「アウトプット学習」の真実を知りませんでした。
いや、実感としては知っていたのかもしれません。しかし、その効果を過小評価していたことは確かです。
ある研究結果では、「アウトプットで学習するグループ」は、「インプットで学習するグループ」に比べて学べる量が2倍も多いことがわかっています。
この「アウトプットの効果」を知ったとき、私の仮説は覆されてしまいました。
私が家を飛び出す前に立てていた仮説は、「図書館でたくさんの本を読めば、大学に進学するよりも経済的に、より多くの知識が得られる」というものでした。
この仮説には、「たくさんの本を読めば、たくさんの知識が得られる」という前提条件が隠れています。当時の私にとってこの前提はあまりに一般的な常識で、疑うことすらできませんでした。
しかし、本を読むのは情報の「インプット」です。
科学的には、多くの情報を「インプット」することが、たくさん学べることであるとは言えません。
実際のところ人間は、たくさんの情報を「アウトプット」することによって、多くのことを学ぶことができるのです。
だとするなら、私の仮説の前提条件「たくさんの本を読めば、たくさんの知識が得られる」は否定されたことになります。
真実は、「たくさんの本の内容を「使う」ことで、多くの知識が得られる」のです。
この認識の誤りによって、私は本の速読や乱読を重視し、大量の情報をインプットすることに力を入れるばかりで、学習においてもっとも重要な「アウトプット」を軽視していました。
アウトプット学習の観点から見ると、大学教育は優れたシステムなのかもしれません。
定期的に行われるテストやレポートが個人の評価につながるため、学生は否応なく学んだことを「使う」ことを求められます。
また高校に比べ、大学では学生同士で学んだことを議論しあったり、説明しあったりする機会も多いでしょう。
こうした学習は明らかに「アウトプット」であり、こうしたアウトプットの機会は、図書館よりも「大学」という環境のほうが多く提供してくれるものです。
図書館を使った独学は、大学よりも経済的ではあるかもしれませんが、学習の効率性としてはアウトプットの機会が豊富な大学の方が優れているでしょう。
私も、大学に進学すべきだったかもしれません。
しかし、私は自らの失敗から大きなことを学ぶことができました。
それは、学習のために本を読む独学者にとって、現状では使いやすい「アウトプットツール」が存在しないということです。
この「痛み(課題)」の解決こそ、私がTestingBookを開発する目的です。
私は自身の図書館を使った独学経験から、日本の書籍文化の知性の厚みを実感しました。
日本は書籍による「優れたインプット環境」をすでに持っています。
ただ、本から得たインプットを知識に変えるための「アウトプット環境」が貧弱なのです。
私がTestingBookで解決したいのはこの悪環境であり、作り上げたいのは「読書家・独学者が本から知識を得ることのできる強力なアウトプット環境」なのです。
現状では、アウトプットは個々人の工夫に委ねられています。
もちろん、読んだ本の内容を日常的に他人に話したり、書評ブログや書評サイトで投稿するなど日々の読書にアウトプットの工夫をすでに取り入れている方もいるでしょう。
しかし、私が大学生にインタビューしたなかでは、本をよく読んでいる学生であっても、日々に「アウトプット」の習慣を取り入れている人はほとんどいませんでした。
大学という優れたアウトプット環境の恩恵を受けている人たちでさえ、自分の受けている恩恵を理解しているとは限らないのです。
彼らもまた、私がかつてしていたのと同じ誤解をしていました。
つまり、「本をたくさん読めば、たくさんの知識が得られる」という誤解です。
しかし真実は、「本の内容をたくさん使えば、たくさんの知識が得られる」のです。
とはいえ、彼らとかつての私がこうした誤解を捨てきれなかったのには、もっともな理由があります。
読んだ本について手軽にアウトプットする環境・手段が周りに存在しないので、アウトプットの学習効果を実感する機会がなかったからです。
インプット学習の効果しか実感したことがなければ、インプット学習が効果的であると勘違いするのは当然でしょう。
私自身、アウトプット学習に本当の意味で納得したのは、心理学の統計データや脳科学の理論による裏付けを知ってから、実際に自分でアウトプット学習を試してみてからです。
だから私は、人々がアウトプット学習の効果を実感できるような「手軽な本のアウトプット学習環境」をTestingBookで作りたいのです。
TestingBookとノンブルリンクをもっとも欲しがっている人間は、おそらく私自身です。
私は現在のアウトプット環境に不便(痛み)を感じています。
だからこそ私は、まず自分の痛みを解決するために、TestingBookとノンブルリンクを実現したいのです。
このサイトはTestingBookとノンブルリンクのプロトタイプですが、実際に自分で使い、自分の痛みを解決しているものです。
もしTestingBookだけでなくノンブルリンクまで公開するとなれば、現状では著作権上違法ですが、このハードルを超えて、なんとか合法的な実現にこぎつけたい。
TestingBookと、それを便利にするノンブルリンクのような独学者のアウトプット環境を整えることは、私だけの利益ではなく、社会的にも大きな利益のあることです。
どんな人であっても、いつまでも学生ではいられません。
遅かれ早かれ、私たちは学校教育を卒業し、独学の世界に放り込まれます。
学びの多様化は進みましたが、それでも独学の主要な手段が読書であることは疑いないでしょう。
しかし現状、私たちには本から学んだことを「手軽にアウトプットできる場」が用意されていると言えるでしょうか?
「用意されていない」というのが、私の結論です。
このとき独学に放り込まれた元学生は、私がかつて犯したような誤解によって非効率な学習をしてしまうのではないか。
学ぶ期間は、学校教育よりも、独学の期間のほうが長いのです。
効率的な独学ができないことは、生涯学習が重要視される現代において、社会全体にとっての大きな損失ではないでしょうか?
「アウトプット環境」を整えるというのは、「学習環境」を整えるということです。
私は、杉並区の図書館のような、誰でもアクセスできる、良質な学習環境を整えたい。
所得による教育格差が広がっている現代でも、所得による学習格差までは広げたくはない。
意欲次第で誰でも這い上がれるだけの社会流動性は維持したいのです。
TestingBookは教育ツールではありません。学習ツール です。
世界中の独学者に最高の学習環境を。
これこそTestingBookのビジョンであり、使命です。
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